わたしが子どもだった頃、両親はケンカばかりしていました。
たいていは父が機嫌の悪い時に、家庭の空気が暗くなることが多かったです。
自営だったので、父と母はいつもいっしょ。
今思えば、距離が近すぎたからこそ、言い合いが絶えなかったんだろうと思います。
母が泣いたり、うつ状態になったりすることもあって、もうそれは…思い出すと「つらかったなぁ」と、遠くをぼんやり見つめてしまうほど悲しい記憶が残っています。
そんな父と母も歳をとり、父も若かった頃ほど母に対して強くあたることは減ってきました。でも、“少なくなった”だけ。
数か月前のある日。
母と久しぶりにランチをしていたら、ふいに言われました。
「おかあさん、一人暮らしすることにしたの」
わたしの口から、思わず出た言葉は、
「良かったじゃん!おめでとう!」
「よかったね、やっと解放されたんだね」
でした。
言ったあと、ちょっと驚いて、胸がふるえたんです。
こんな日が来るなんて。
そして母と父は離れて暮らすことになりました。
とはいえ、仕事ではほぼ毎日顔を合わせているんですがね…。
さらに衝撃だったのは、数日前のこと。
次女と大型イオンへお買いものに行ったとき、食品売り場へ向かって歩いていたら、前方に見覚えのある二人が。
それは和やかに会話をしながら並んで歩く、父と母の姿でした。
思えば…
父と母が二人きりで出かけるなんて、孫の付き添いや法事など「決まりごと」以外ではほとんど無かったと思います。
でも、まさか。
孫も子どもも無しで、二人だけでいるなんて!!
内心ビビりながら、
「おお!めずらしい!どうしたの?」
と声をかけると、亡くなったペットの納骨を終えたあとに、二人で買い物をしているとのこと。
数年ぶりに、父と母が和やかな雰囲気で並んで歩いているのを見た…。
もう、一生そんな二人を見ることは無いって思ってたから、ほんとうに驚いた。
その瞬間、隣に次女がいるのに、思わず泣きそうになっちゃったよ。
子どもの頃の私がそんな光景を見たら、きっと喜ぶし、とっても安心すると思う。
ああ、そっか。
38歳のわたしが、その瞬間子どもに戻ったんだ。
二人の姿を見て、心底安心したんだろうな。
過去の「すぐ怒鳴る、不機嫌ばかりの父」のことを思い出すたび、胸の奥が暗く重くなって、父を許せない自分が、ずっと心の中にいました。
そして母のことも、いつまでも「かわいそうな人」として見ていたような気がします。
でも並んで歩く二人の姿を見た瞬間、許せた…というか、うまく言葉にできないけど、二人のことを「開放」できた気がしたんです。
頭の中で、子どもの頃の自分をぎゅーっと抱きしめて、
「大丈夫だよ、両親が仲良く並んで歩くような日が、いつかくるからね」
って。
中学生の頃、無力でなにもできない自分がくやしくて、ふいてもふいても出てくる涙で枕を濡らしながら寝た、あの夜のわたしを、なぐさめてあげられたような気がしました。
ずっと心の中にあったわだかまりが、とつぜん解放されたときの解放感。
こんな奇跡は思いがけずやってくるものなんですね。
写真は、中学生のころのわたし。
ほんと、おつかれさまね。